2014/08/03

心でファンと“繋がりたい”アイドルの思い - 「梨花 17」あらすじとレビュー(内田祭り第二弾)


ファンと個人的に接触することを“繋がる”というらしい。
青木無常でございますよ。


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アイドル用語、というのかな。隠語ともちょいと
イメージがちがうし、どういえばいいのか。

ともあれ、内田眞由美の『言えない恋心』の
最初の短編「梨花 17」にそのようなことが
書いてある。

言葉どおり、この短編集にはアイドルを主人公にして
さまざまな形でのアイドルとその周辺の人物たちとのつながりが
描かれておりますよ。もちろんそれは、肉体的な
繋がり(だけ)ではなく。



というわけで以下、ネタバレあらすじ。

ネタバレ部分もそのまま記してありますので、
未読かつ読む予定のある場合は以下は
どうぞご遠慮を。


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   「梨花 17」ネタバレあらすじ




 私はファンに恋をしている。
(p.61)

 主人公、17歳の梨花は大人数アイドル「ジュエリ」のリーダー的存在で三年のキャリアを持ち、多くの後輩やスタッフにも頼られる存在。

 そんな梨花がファンと「繋(つな)が」っていく状況と、心だけで交流していく、ささやかな幸福に色彩られた短い時間、そして状況が彼女から奪っていく何かが、ガラスのように硬質に描かれる掌篇。



 シロちゃんは後輩も“かっこいい”とうらやむような、顔立ちの整った青年で梨花のファンの一人。ブックカフェの店員をしていて、年齢は22才。

 はじめて見かけるようになったのは半年ほど前で、ペンライトや声援はなく、静かにステージを見ている姿が逆に梨花の目にとまる。

 笑顔を向けると、かすかに微笑んでくれる。

 その青年からの手紙には、彼に梨花と同い年の妹がいることがつづられる。

 体が弱い妹と梨花は顔立ちや雰囲気が似ていて、アイドルとして梨花が元気に歌い踊る姿が気になってライブにきた、というようなことがそこでは語られていた。



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 それから梨花はその青年“シロちゃん”を客席に見かけるようになり、手紙も度々もらうようになる。

 そして文体から伝わるシロちゃんの人柄に、次第にひかれていく。



 そんなある日、梨花は待ち合わせに迷って偶然、ブックカフェで働くシロちゃんを見つける。



 気持ちを抑えられず、梨花は後日、たまたまを装いシロちゃんの働くブックカフェを訪れ、カウンターごしにだが話をすることができた。

 手紙でのイメージのとおり、シロちゃんはおだやかでやさしく、ひかえめ。

 そんなシロちゃんへの思いを抑えきれないまま、梨花は彼の働く店に通うように。



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 ある日、シロちゃんから一冊の本を手わたされる。

『Never Land』というタイトルのその本はファンタジー小説で、盗賊から国を守って戦う少女たちの姿が描かれていた。

 シロちゃんは梨花にぜひその本を読んでもらいたかったのだという。



 梨花はその物語の中でも特に、リアという名前の少女に感情移入する。

 仲間のことを考えるあまり、自分の心を見失ってしまうリアは、気分が和らぐというライナの葉を求め、崖からおちて命を失ってしまうのだ。

 なぜリアは、危険をおかしてまでライナの葉を採ろうとしたのか。

 答えはわからなかった。



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 それからも梨花は、シロちゃんとのささやかな交流のために店に通うのだが、終焉は唐突に訪れてしまう。

 いつものようにシロちゃんに会おうと店を訪ねた梨花を待っていたのは、マネージャーだった。

 ファンの忠告でバレたらしい。

 スキャンダルに発展する前に防げたのは僥倖だったかもしれないが、梨花の立ち位置は後ろに変更されてしまう。



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 なにより、シロちゃんにも会えなくなってしまうのだった。

 うしなってはじめて、梨花は彼の存在の大きさに気づかされる。


 シロちゃんに近づきたいと思う気持ちを抑えることは、出来なかった。仕事を始めてから友達と呼べる存在はメンバーだけで、学校の友達とはどこまで話していいのか分からず、自然と距離が生まれた。(中略)本当の友達が欲しい。メンバーに言えないような仕事の悩みも、愚痴も、笑って話せるような友達が。
(p.31)

 だがそんな梨花のささやかな願いすら。


 夢から覚めたくないと喚(わめ)く子供のようなわがままな願いは、揺るがない現実によって打ち砕かれた。
(p.32)


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 ひと月が経つ。うわさではシロちゃんは、ブックカフェもやめたらしい。

 そしてそんな頃になって初めて、梨花は『Never Land』に、しおりのようにさしはさまれていたシロちゃんからのメッセージに気づく。

 リアがライナの葉を採ろうとした理由には、色々な説がある、と。

 リアは盗賊に突き落とされたとか、仲間たちが盗賊とグルだったとかいう説とともにファンのあいだで語られる、シロちゃんが一番信じたい説。それは。

 病気の仲間のために、リアはライナの葉を採ろうとしたのだ、という説。

 自分の命を顧みずに崖へ降りたリアと梨花の姿を、シロちゃんは重ねていたのだという。



 手紙には、笑顔で頑張る梨花が好き、と書かれていた。


 私は感情が爆発したように泣いていた。なぜこんなに大切な人を失ってしまったのか。私も好きです。優しくて、私の話をいつもちゃんと聞いてくれて、恥ずかしいと照れ笑いを浮かべる貴方(あなた)が好きです。
(p.35)


――以上「梨花 17」ネタバレあらすじ




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あらかじめ断っておくが、私には
小説としてどうこうとか文学的にどうこうとか
語る素養も興味もない。

ただ、物語としておもしろいか、
そして読後、満足感を感じることができたか。

“内田眞由美の小説”に限った話ではなく、
物語を味わう際にはつねに、
そこに焦点をおき、価値を感じる。

この「梨花 17」という物語についても
もちろんそういう読みかたをした。



そういう意味でも、
幕開けを告げるにふさわしい佳編。

というより私にとってはこの物語が
本書においてもっとも好きな一編だ。
まちがいなく。



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シロちゃんの気持ちを代弁させるための小道具として
(架空の?)ファンタジー小説が出てくるあたりは
やや強引というか唐突な感も拭えないが、
そこを除けば特にひっかかりも感じなかった。

むろん、その部分も大したひっかかりですらない。
まとまりもいいし分量もいい。



梨花のピュアで無邪気な恋心と
当然の帰結とはいえそのささやかな幸せが
ささやかに失われていく結末。

ながい彼女たちの人生においては
あまりにもささやかで、
あえていってしまえばかわいらしい
失恋の顛末にしかすぎないのかもしれない。

でも、だからこそ悲哀と希望、ともに静かに、
小さく描かれた結びかたは
やさしい哀しさを含んだ
さわやかとさえいっていい読後感をそえる。



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アイドルが書いた小説らしい、ともいえるかもしれない。

心の交流だけの、純粋な恋愛の形。
ただしそれは単にそういう形として描かれただけでもある。

既に紹介済の“序章”もそうだが、
肉体的関係を暗示(あるいは明示)する短編も
この本にはきちんと描かれている。

アイドルの書いた小説を読む、という前提条件からすれば
そこに興味の焦点がいったとしても無理はないかもしれない。

だが彼女の物語には、当然のことながら
そこに重点はおかれてはいない。
そこに注目しても意味はあまりないだろう。

…と安心していえるのも、
全編を通読しているからこそだけどね。(^_^;)

初読の時は若干「アイドルが書いた
あたりさわりのない内容の恋愛話」
ばかりがつづくのかという危惧も
感じたことは感じたけどね。(^_^;)



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そのあたりは暴露話に走るでもなく
かといって避けてとおるでもなく。

いってしまえば余計な気負いのない
適度な感じで触れられているといえる。
いや、これは先走りだな。また後日触れる機会もあるだろう。



本気でいうけど、応援しているアイドルが
書いた小説だから過度にベタ褒めしているとか
そういうつもりはカケラもねえぞ。
だれがそんな腑抜けたことするか。



まあ彼女が小説家として今後、継続できるのか、
飛躍できるのかに関しては、わからない、としか
いいようがないのも確かだけどね。



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どうあれ、この物語は気に入った。
好き。



本日は以上です。また日をおいて書きますね。
最後まで読んでくれてありがとう。
それでは、また~(^_^)/~~


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