2012/07/16

読書録──『殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安』

読書録──『殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安』池波正太郎/講談社文庫


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 かの名高き仕掛人梅安シリーズの第一弾。第一作『おんなごろし』執筆時には、作者にシリーズ化する構想は特になかったらしい。ここからあの『木枯らし紋次郎』を失墜させるTV時代劇「必殺シリーズ」が始まったわけで、実に数奇。


 TVの必殺シリーズは『助け人走る』の再放送を皮切りに、けっこうな数を観てきたが、実は映画を含めた大元の「梅安」ものはひとつも観たことがない。ので、この原作と数ある映像化作品とのあいだの相違点についてはまったくわからない。ただ中村主水ものはある程度観ているので、雰囲気のちがいに少々意外の感を覚えた。むろん、どちらがよいというおこがましいせりふを口にするつもりはない。「仕置人」に始まる主水ものの、ばかばかしさデタラメさをも含めたケレン味も好きだし、本書にみられるあっさりとしていながら味わい深い読後感ももちろん好きである。


 主水シリーズとの大きな違いは以下の点。主水ものが梅安にインスパイアされて生まれただけのまったく別の物語であることは承知の上だが、それにしても意外感が大きい。
 主水シリーズの仕置人-仕事人は非常に小額で殺しをする。晴らせぬ恨みを晴らすのがその主旨で、頑ななまでにその部分にこだわりがある。かれらの標的はおおむね、弱者を死に追いやる残酷きわまりない人非人だ。場合によっては“頼まれればだれでも殺す”外道も出てくるが、基本的に主水ら主人公グループを含めた“江戸の暗殺者”たちは“筋のちがう”依頼には嫌悪感を示し、乗ることもない。
 本書の梅安も、基本的には同じで“この世に生きていては毒になる”やからを暗殺するのが定法だという。ただし仕事を依頼する依頼者とかれら仕掛人との間には“蔓”と呼ばれる仲介者が存在している。仕掛人は“蔓”を信頼して何もきかぬまま殺しを遂行し、多くの場合は大金を得る。ので、“蔓”が“筋の違う”依頼を受けても、実行者である仕掛人にはそれがわからないし、仕掛人が“蔓”を疑い裏をとる行為も基本的には行われていないらしい。
 本書は初っ端の第一話から、むかし請け負った仕事が実は“筋違い”の欲得づくの殺しであったことが偶然判明する。だからといって主水もののように、掟に反したからといって梅安が“蔓”を粛清の意味で始末することもない。ただその“蔓”の依頼は今後請け負わないと決めるだけである。このあたり、実にクールというかドライな感じだ(もっとも、本書最後尾の短編である「梅安晦日蕎麦」では“筋の違う”依頼をしてきた“蔓”と依頼人とを始末しているが、掟に背いたからというよりは、請け負った仕事の完遂を避けるためという意味あいのほうが強いように思える)。
 もちろん、主水もののようにウェットなまでに“筋”にこだわる仕事人もよいが、梅安の乾いた生きざまもまた実に味がある。



 本書は短編集である。あらすじを記するなど野暮のきわみであろう。野暮を承知の上で、というよりは野暮をむきだしにして投げつける目的で始めたブログではあるが、今回は記載を見送る。かわりに、といってはなんだが、各話にはかならずといっていいほど梅安の食事シーンがでてくる。またそのメニューが渋い。ので、あらすじがわりにそれを。


「おんなごろし」
・季節は新年を迎えたばかり。真子(まこ)・白子(しらこ)を腹中に抱いて脂がのりきった沙魚(はぜ)を、生醤油と少々の酒でさっと煮つけたもの。頭も骨も残さない。
・囲炉裏へうす口の出汁を張った鉄鍋を掛け、輪切り大根と油揚げを細く切ったものを入れ、ぐつぐつと煮え出すのを小皿へ。
・小鯛の片身に木の芽をあしらったもの。つづいて鯨骨(かぶらぼね)の吸物。吸物の中には蘭の花が浮いている(なじみの料亭[井筒])。



「殺しの四人」
・季節は梅雨。卵そうめんと、鰹の刺身(なじみの料亭[井筒])。
・鶏で出汁をとった大根と油揚げの土鍋(なじみの料亭[井筒])。
・にぎりめしに醤油をつけて焼いたもの。竹の皮でつつむ。
・熱い飯に生卵と味噌汁。



「秋風二人旅」
・秋茄子の塩もみへ、水辛子をそえたもの。



「後は知らない」
・蒸焼にした松茸。
・熱い味噌を豆腐につけた田楽。菜飯。



「梅安晦日蕎麦」
・鰹節に醤油をうす味につかった雑炊。
・浅蜊と大根の千六本を、出汁をとった土鍋で煮、引き上げて小皿へとり七色蕃椒(とうがらし)を振って、汁とともに。炊きたての飯へ大根と浅蜊の汁をたっぷりとかけて。香の物も大根。
・味噌汁の残りを暖めたもの。生卵を小鉢へ割り入れ、大根の醤油漬と共に。
・柚子を入れた柚子切蕎麦を葱とおろしたての山葵で。



 本稿、カップヌードルを食しながら記す。野暮のきわみ。




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※この記事は アメブロに投稿した記事のバックアップです



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